タイ駐在「コミュニケーションの壁」と「異文化の壁」

タイ駐在「コミュニケーションの壁」と「異文化の壁」

日本企業にとってASEAN市場での重要拠点タイ王国。多くの日系企業社員が駐在員として活躍されています。しかしながら、タイに関して十分な知識や理解を持たずに日本での経験やマネージメントスタイルをそのまま実践すると、タイ人スタッフとの間に軋轢が生じたり労働争議にも発展するケースがあります。タイで仕事をさせてもらう立場の駐在員は、「タイの国情・文化・習慣」を学び「タイ人の気質・価値観」を理解する必要があります。しかし、現実には多くの駐在員が十分な研修を受けられずに「ぶっつけ本番」でタイに派遣されています。

■予想もしなかったタイへの赴任。

国内畑の私に突然タイへの赴任内示が伝えられたのは、日本経済が減速し、日本企業の多くが「おまけのアジア」から「期待のアジア」へ大きく舵を切り始めた時でした。そのため、成長するタイで販売実績を大きく伸ばすのが私の使命でした。

タイに赴任した私は日本語の話せる秘書を採用し、日本で培ったマネージメントやマーケティングスタイルをタイ人スタッフに徹底していきました。タイ人スタッフの印象は素直で、活動は順調にスタートしたかに思えました。しかし、赴任して半年程が経過した頃、現地スタッフとの歯車がかみ合っていないことに気が付きました。「分かりました、出来ます、と言ったのにやってくれない。」「社内のルールを変更すると大きな抵抗に合う。」などの現象が起き始めていました。その時、たまたまバンコクで行われた駐在員向け研修に参加しました。テーマは「タイ人から見た日本人駐在員」でした。「目からウロコが落ちる」とは正にこのことでした。

■駐在員として反省したこと。

  • 私のマネージメントは「日本式管理の押し付け」でした。 

日本での成功体験や自信がかえって裏目になり、理由や狙いも十分説明せず、タイ人の意見も殆ど聞かずに指示をしていました。

  • 日常会話も足りませんでした。

私の信条や趣味、家族構成など私的なことは殆どアピールせず、仕事の指示のみを行う怖い上司とのイメージが社内で定着していたようです。

  • タイで働いでるにもかかわらず、「日本では」が口癖でした。

タイ人の根底にある宗教観、思いやりの心、年功や階級意識などタイ特有の文化への関心も欠けていました。

■私が体験した「コミュニケーションの壁」と「異文化の壁」

「コミュニケーションの壁」

・言葉の壁は思ったより深刻でした。「タイ人に指示をしてもすぐ理解してもらえない。」「私の指示はよく分からない。」など、ミスコミュニケーションが問題でお互いの不信感を招きました。

・タイ人のビジネスコミュニケーションは上位下達で、上司が言ったことに部下はただ従うのが一般的です。当然、私への確認や質問はなく、日本式の「報・連・相」は期待できませんでした。

・また、会議でも責任を取りたくない、争いを嫌うなどの理由から、上司や他部門への反対意見は出ず問題点の把握に苦慮しました。

「異文化の壁」

・「プロセスを重視する日本式」と「結果重視のタイ式」の違いにも困惑しました。納期ギリギリになって対応するタイスタイルは、「遅々として進む」という表現がぴったりでした。

・自分の担当業務へは真摯に対応する反面、他部門への関心は薄くチームワークを要する業務は苦手のようでした。

・「性善説」を重んじる日本と違い、「性悪説」を基本とする罰則管理にも戸惑いました。

 ■自らが変革し「コミュニケーション力」と「異文化容認力」を養う。

タイ国内にあった13か所の営業、サービス拠点全てを訪問しヒヤリングを行ないました。本部でも各部門との食事会を実施。昼食も極力1人で過ごさずタイ人スタッフと一緒に屋台食にチャレンジしました。通訳を介さない直接会話を目指し、タイ語学校にも通いました。業務指示も語学力を補うため、相手が理解するまで丁寧に伝えました。タイ語の勉強は会話だけでなく、タイの文化を学ぶきっかけにもなりました。タイと日本では教育内容や宗教観も違うことを知りました。温暖な気候、肥沃な土地に恵まれ、災害の心配も少ないタイはとても豊かな国です。仕事に対してもおっとりした気質はタイ人の個性として容認するよう心掛けました。地方のスタッフに誘われお寺でタンブンをしたり、恵まれない子供たちの施設を訪問したり、冠婚葬祭にも積極的に参加しました。

■私が変わるとタイ人スタッフの対応も変わって行きました。

各部門から彼らが考えたイベントの提案も来るようになりました。営業部門から日系企業への同行依頼も増えました。インフォーマルな情報もいろいろなルートから入るようになり、課題や問題への先手の対応も可能になりました。私が学んだことは、タイの文化に関心を持ち、自らタイ人の組織に入って行くことで、彼らの心を掴むことでした。

 ■自らの体験を赴任者へ伝えたい。

少し早く会社を卒業し、タイと日本の友好に少しでもお役に立てればと、「日タイ・ロングステイ&ビジネス・ネットワーク」を設立。自らのタイでの駐在体験を整理し、タイ人ビジネスマンのアドバイスも取り入れ、赴任前研修のカリキュラムを開発しました。

現在、いくつかの海外進出企業支援組織やコンサルタント会社とも提携し、タイ赴任前研修講師を務めています。また現地バンコクでも駐在員の方のフォロー研修も実施してます。2013年から本格的に開始した赴任前研修を受講いただいた方は、2021年3月末時点で1,500名を超えております。

 

 

 

 

 

日タイ・ロングステイ&ビジネス・ネットワーク  代表 山下雅史(やましたまさし)

yamashita@thai-longstay.jp     

+81(0)3-6905-8711

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